齋藤哲学におけるケア倫理

Care Ethics in SAITO Philosophy

 

 


 『関係情報存在論としてのケア倫理

 ケアとは何か

 従来のケアは、しばしば、

 ・援助

 ・保護

 ・介助

 ・看護

 ・世話

 ・問題解決

 ・不測の補填

 として捉えられてきた。

 しかし、齋藤哲学においてケアとは、単なる援助行為ではない。

 ケアとは、他者を関係情報存在として理解し、ご本人が尊厳をもって、自らの生き方を創発し続けられるように支える倫理的実践である。

 ケアは、相手を一方的に支配することではない。

 ケアは、相手を単なる支援対象として扱うことでもない。

 ケアとは、ご本人の存在を尊び、ご本人の人生・記憶・苦しみ・願い・沈黙・希望・可能性に応答する営みである。

 

 定義

 ケアとは、他者を関係情報存在として理解し、その尊厳・生き方・意味・希望・可能性を、関係の中で支える倫理的実践である。

 したがって、ケアは技術だけではない。

 ケアは制度だけでもない。

 ケアは効率だけでもない。

 ケアとは、人間を人間として、同時に唯一無二の個人である「ご本人」として受けとめ、個別のご本人にとっての生きる意味と自由度を支える実践である。

 

 以下では、齋藤哲学におけるケア倫理を、 

 原理(ケア倫理の根本をなす理論

 公理(ケア倫理の前提)

 定理(公理から導かれる命題)

 命題(真偽の判断の対象となる文章

 テーゼ(ケア倫理全体を要約する主張)

 として整理する。

 

 第一原理 尊厳応答原理

 ケア公理1

 ケアは、他者の尊厳への応答である。

 人間は、能力や役割によって尊厳を与えられるのではない。

 人間は、すでに関係の中で唯一無二に存在しているがゆえに、尊厳を有する。

 したがって、ケアはまず、ご本人の尊厳に応答することから始まる。

 

 定理1

 ケアとは、他者を役に立つかどうかで測らず、唯一無二の存在として受けとめる実践である。

 ケアは、相手を「できる人」「できない人」「問題のある人」「支援される人」としてだけ見ることではない。

 ケアとは、ご本人がこの世界に一回限りに現れている存在であることを尊ぶことである。

 

 第二原理 関係性原理

 ケア公理2

 ケアは、孤立した個人に対する一方的な行為ではなく、関係の中で成立する。

 ケアする者とケアされる者は、固定された上下関係に閉じ込められるべきではない。

 両者は、かかわりの中で互いに影響し合い、意味を生成し合う。

 

 定理2

 ケアとは、関係情報を創発する相互的実践である。

 ケアにおいて交わされる言葉、沈黙、表情、視線、身体の動き、拒否、ほほえみ、涙、怒り、願いは、すべて関係情報である。

 介護福祉職は、それらの関係情報に呼応し、その背景的なつながりを察しながら、かかわりを通してご本人の生きる意味を、人生の全容から肯定的に理解しようとする。

 

 第三原理 ご本人主体原理

 ケア公理3

 ケアは、ご本人の人生を中心に据える。

 ケアの中心にあるのは、制度でも、効率でも、支援者の都合でもない。

 ケアの中心にあるのは、ご本人の人生である。

 

 定理3

 ご本人主体とは、ご本人を単に支援の対象としてではなく、唯一無二の人生を生きる主体として尊ぶことである。

 ご本人主体とは、単にご本人の言葉をそのまま実行することだけではない。

 ご本人のご本人の言葉にならない願い、沈黙、拒否、混乱、生活歴、関係、身体の反応を含めて、ご本人の真の意向を肯定的に理解しようとする姿勢である。

 

 第四原理 生き方の自由度原理

 ケア公理4

 ケアは、ご本人の生き方の自由度を支える。

 人間にとって大切なのは、単に生命が維持されることだけではない。

 どのように生きるか。

 誰と共に生きるか。

 何を大切にして生きるか。

 どのように日々を過ごすか。

 そこに、ご本人の生き方がある。

 

 定理4

 介護福祉実践とは、ご本人が「わたしの人生を生きている」と感じられるように、生き方の可能性を支える実践である。

 ケアは、生活行為を代行するだけではない。

 ケアは、ご本人の選択、関係、楽しみ、記憶、役割、願い、誇りを支えることで、生き方の自由度を回復し、拡大する営みである。

 

 第五原理 肯定的理解原理

 肯定的理解公理

 ケアは、他者を否定的断片としてではなく、肯定的全体として理解しようとする。

 ここでいう肯定とは、すべてを無批判に受け入れることではない。

 肯定的理解とは、ご本人の言動、怒り、混乱、拒否、沈黙、苦しみ、願いを、ご本人の人生と関係の中で理解しようとする倫理的姿勢である。

 

 定理5

 肯定的理解とは、ご本人の生きる意味を関係の中で見いだそうとするケアの根本姿勢である。

 一見理解しがたい言動も、人生史、記憶、関係、苦しみ、願いの中で見直されるとき、新たな意味を帯びる。

 ケアは、ご本人にとっての意味を見いだそうとする実践である。

 

 第六原理 全容理解原理

 ケア公理6

 ケアは、人間を部分ではなく全容として理解しようとする。

 人間は、一つの症状、一つの行動、一つの発言、一つの能力、一つの役割からだけでは全容を理解できない。

 人間は、身体、記憶、生活歴、関係、感情、沈黙、苦しみ、願い、希望、死生観を含む全体として理解される必要がある。

 

 定理6

 ケアとは、ご本人の生き方に関する全容理解に基づく実践である。

 介護福祉実践は、身体面だけを見るものではない。

 心理面だけを見るものでもない。

 社会面だけを見るものでもない。

 しかも、見方によっては、その解釈が正反対になる場合さえありうる。

 わらないことの方がはるかに多いために誤解を生じやすいことを認識していなければならない。

 全容の理解に近づくほど、ご本人の人生の生き方への支援の可能性も見いだせてくる。

 それゆえに全容を、ご本人の人生の中で関係的に理解しようとするところに、ケアの倫理がある。

 

 第七原理 苦と希望への応答原理

 ケア公理7

 ケアは、苦しみを単に除去するだけではなく、意味と希望へ開く営みである。

 人間は、老い、病、障害、喪失、孤独、死の不安を経験する。

 ケアは、それらをなかったことにするものではない。

 ケアは、苦しみの中にあるご本人が、なお意味と希望へ向かうことができるように支える。

 

 定理7

 ケアとは、苦と否定性を、意味と関係へ変容する実践である。

 苦しみは、単なるマイナスではない。

 しかし、苦しみは美化されてはならない。

 ケアとは、苦しみを正当化する実践ではない。

 ケアとは、苦しみの中にいる人が、関係の中で意味と希望を見いだせるように支える実践である。

 

 第八原理 相互創発原理

 ケア公理8

 ケアは、支援者とご本人の相互創発によって成立する。

 ケアにおいて変化するのは、ご本人だけではない。

 支援者もまた、ご本人との出会いによって変化し、学び、深められる。

 

 定理8

 ケアとは、支援する者と支援される者が、関係の中で互いに意味を創発する実践である。

 介護福祉実践は、一方通行ではない。

 ご本人の存在、言葉、沈黙、態度、表情、そして人生は、介護福祉職に問いを与える。

 その問いに応答する中で、介護福祉職自身の人間理解も深まる。

 

 第九原理 共存共栄原理

 ケア公理9

 ケアは、個人への支援にとどまらず、それを通して共にあり共に生きる社会を志向する。

 ケアは、地域、社会、制度、文化、自然環境、未来世代との関係の中にある。

 

 定理9

 ケアとは、共存共栄へ向かう関係的実践である。

 ご本人の尊厳が守られる社会は、支援者の尊厳も守られる社会である。

 支援を必要とする人を排除しない社会は、すべての人が生きやすい社会である。

  

 第十原理 宇宙的ケア原理

 宇宙的ケア公理

 ケアは、生命・自然・地球・宇宙との関係の中で理解される。

 人間は、社会的存在であるだけではない。

 身体は自然とつながり、生命は地球環境とつながり、地球は宇宙とつながっている。

 したがって、ケアは人間だけを孤立して扱うのではなく、生命体、環境、宇宙的関係情報の中で捉え直される。

 

 定理10

 ケアとは、宇宙的関係情報の中で、生命と存在の創発を支える実践である。

 ここでいう宇宙的ケアとは、物理学的断定ではない。

 それは、人間・生命・自然・宇宙を、関係情報の連続体として理解するための哲学的視座である。

 

  介護福祉への帰結

 介護福祉実践とは、単に生活支援のみではない。

 健康管理にかかわる視点を含みつつも、医療的管理に尽きるものでもない。

 介護福祉実践とは、ご本人を関係情報存在として理解し、ご本人の尊厳、生き方、意味、希望、魂、可能性を支えるケアである。

 介護福祉職は、ご本人の能力だけを見るのではない。

 症状だけを見るのでもない。

 問題とされる行動だけを見るのでもない。

 ご本人の人生、記憶、関係、願い、苦しみ、沈黙、希望を含めて、全体として理解しようとする。

 

 ケア倫理定理

 ケアとは、他者が関係の中で意味と可能性を創発し続けられるように支える倫理的実践である。

 

 ケアの構造モデル

 尊厳→関係→理解→意味→希望→自由度→共存共栄

 

 ケアの螺旋モデル

 出会い→傾聴→受容→肯定的理解→全容理解→意味生成→希望の支援→新たな自己創発

 

 七つのケア倫理テーゼ

 テーゼ1

 ケアは、他者の尊厳への応答である。

 

 テーゼ2

 ケアは、一方的援助ではなく、関係の中での相互創発である。

 

 テーゼ3

 ケアは、ご本人の生き方の自由度を支える。

 

 テーゼ4

 ケアは、肯定的理解と全容理解に基づく。

 

 テーゼ5

 ケアは、苦しみを意味と希望へ開く。

 

 テーゼ6

 ケアは、共存共栄へ向かう社会的実践である。

 

 テーゼ7

 ケアは、生命・自然・宇宙との関係の中で存在を支える。

 

 ケア倫理公式

 尊厳 × 関係情報 × 肯定的理解 = ケア

 ※この公式は、数学的・物理学的な等式ではなく、齋藤哲学におけるケアの構造を象徴的に示す哲学的表現である。

 

 最高命題(ケア倫理)

 ケアとは、他者を関係情報存在として尊び、ご本人が尊厳をもって生き方の自由度を創発し続けられるように、関係の中で意味・希望・可能性を支える倫理的実践である。

 

 齋藤哲学体系の全体モデル

 存在論 → 宇宙論 → 哲学的人類学(人間論)→ ケア倫理 → 善悪論 → 希望論 → 救済論 → 真理論

 

 本ページの接続焦点

 哲学的人類学(人間論)→ ケア倫理 → 善悪論

 ケア倫理は、哲学的人類学(人間論)において示された人間理解を、他者とのかかわりの実践へと展開する。

 

 齋藤哲学体系におけるケア倫理の位置

 ケア倫理は、存在論と哲学的人類学(人間論)を介護福祉実践へ接続する中核に位置する。

 存在論が「存在とは何か」を問い、人間論が「人間とはどのような存在か」を問うならば、ケア倫理は「ご本人をどのように尊び、支えるのか」を問う。

 人間が関係情報存在であるからこそ、ケアは単なる援助ではなく、尊厳・意味・希望・自由度を支える倫理的実践となる。

 

 哲学史的には

 Carol Gilligan のケア倫理

 Joan C. Tronto のケア倫理

 Martin Buber の関係哲学

 Emmanuel Levinas の他者論

 Gabriel Marcel の実存哲学

 Alfred North Whitehead の過程哲学

 などと対話可能な位置にあるが、介護福祉実践における「ご本人の尊厳」「生き方の自由度」「肯定的理解」「全容理解」「共存共栄」からケアを捉え直している点で独自である。

 

 まとめ

 齋藤哲学におけるケア倫理とは、ケアを単に「援助や介助としてではなく、他者を他者を関係情報存在として尊び、ご本人の尊厳・生き方・意味・希望・可能性を支える倫理的実践として理解する哲学である。

 ケアは、問題を処理するだけの行為ではない。ケアは、人間を人間として、同時に個人として唯一無二の「ご本人」として尊ぶ営みである。

 したがって、介護福祉実践とは、ご本人が関係の中で意味を生成し、希望へ向かい、生き方の自由度を創発し続けられるように支える実践である。

 

 ※ケアとは、関係の中でご本人の尊厳の応答し、ご本人の生きる意味と可能性を支えることによって、共に在り共に生きる世界を創発していく倫理的実践である。

  

 

 

 齋藤哲学におけるケア倫理の要点

 1.ケアの本質

  ケアとは、他者の存在可能性(自由度)を支える関係実践である。

 2.介護福祉哲学

  介護福祉とは、単なる援助ではなく、支援を要する個々人とのかかわりを通して体験的に知り得る掛け替えのない人生の意味と、存在そのものとして元来有している尊厳への支援である。

 3.共生

  救いは、個人の達成ではなく、共存共栄のなかで成立する。

 

 

 ※齋藤哲学は、介護福祉実践における尊厳支援を、生き方の自由度を回復する関係的過程として捉える。

齋藤代彦
Shirohiko Saito
 
 
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キーワード
齋藤哲学、SAITO Philosophy、関係情報存在論、Relational Informational Ontology、介護福祉哲学、Philosophy of Care Welfare、ご本人の尊厳、生き方の自由度、共存共栄、肯定的理解
 

著者について

齋藤代彦は、介護福祉職としての実践経験と、介護福祉士を養成する専門学校・短期大学・大学における24年間の教員経験を基盤に、関係情報存在論を中核とする「齋藤哲学」を体系化し、関係情報存在論としての介護福祉哲学を公開・研究している独立研究者です。

1958年(昭和33年)生まれ。
社会福祉士・介護福祉士。
満66歳となった年度末に教員生活から引退しました。

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